オーディオのついでに見たヨーロッパの野菜など(4.ニースとラタトゥーユ)

2013年 小林 正信

※この記事は株式会社産直新聞社が発行する「産直コペル」に連載したものです。

4.1.ニース


 閑散としていて食事に入るレストランも見つからなかったので、プロバンスのドライブは早めに終わってしまった。そこで、昼飯抜きで南東へ100キロほど足を伸ばし、ニースまで行ってから昼夜兼ねての食事をすることにした。産油国から来たと思われるアラビア文字のナンバーを付けた超高級車に気を使いながら高速を飛ばしてニースに着くと、大変な渋滞の中での駐車場探しとなってしまった。それでも、東京に慣れている日本人にとっては大した混雑ではなく、美術館の地下に駐車して海へ向かって歩いた。コートダジュールと呼ばれる地帯の海は、たしかに紺碧で青のグラディエーションが美しいのだが、のどかなプロバンスとは大違いの騒がしさで、みやげ物店がひしめく旧市街の狭い通りは観光客でごった返していた。ビーチで見つけた気持ちよさそうなレストランは高級だったが、メニューにはコートダジュール名物のブイヤベースがなかったので、シンプルに魚を焼いた料理をパラソルの下で食べた。ビーチは丸い石ころだらけで砂がなく、日光浴をする人やビーチバレーに興ずる人などでにぎやかだった。

コレンから100キロほど離れた所にあるニース
コレンから100キロほど離れた所にあるニース

 男性にもらったトマトはとても大きく、色も赤が少し浅かったので味はそれほど期待していなかったが、翌朝ホテルで食べてみると、意外な食味で関心させられてしまった。なんというか、マッシュポテトのような少しザラッとした舌触りがして、フルーツティーな日本で流行りのトマトとはまったく逆の方向性で、「これは米やイモの代わりに主食として食べられる」と思った。日本のトマトは甘くて好きだが、ちょっと青臭いのと酸味が強くて味が濃すぎるので、たくさん食べるのは苦手なのだが、コレンのトマトは腹いっぱい食べても平気で、味にも香りにもまったく不快なところがなかった。野菜不足の旅行者には最高の朝食だ。このトマトとミントをビニール袋に入れ、バッグに押し込んで数日持ち歩いたが、日本のトマトよりはるかに丈夫でほとんど傷まなかった。もっとも、それは一緒にもらったミントの効果だったのかもしれない。

話を聞いた男性にもらったトマトとミント
話を聞いた男性にもらったトマトとミント

4.2.ラタトゥーユ


 フランスは料理大国でレストランは豊富なのだが、それでも圧倒的に肉料理が多く、野菜料理が少ない。このことは世界中の外食に共通している。メニューにある野菜料理といえば断然サラダが多いのも共通点だ。だから、日本の外食で野菜の煮物を探すのが大変なように、フランスでも旅行者が家庭風の野菜料理を食べるのは難しい。そこでパリ在住のオーディオ愛好家ジョンシェリー氏のお宅を訪問したとき、奥様に伝統的なレシピによるラタトゥーユを作ってもらった。ラタトゥーユはたっぷりの夏野菜を炒め煮したもので、ローストしたラム肉といっしょにいただいた。じつは、日本のフレンチ・レストランでは案外ラタトゥーユがポピュラーでメニューに載っていることが少なくないのだが、大振りの野菜がゴロゴロした見栄えの良い外食風のレシピで、写真のように家庭で作られる伝統的なレシピとはかなり異なる。このように外食と家庭で同じ料理が別物のようになるというのも、洋の東西を問わない共通点である。いただいたラタトゥーユはやさしい味で、これとパンだけで十分だと思いつつ、1ビットのデジタルオーディオについての議論に花を咲かせた。

伝統的なフランス家庭料理としてのラタトゥーユを添えたラム肉のロースト
伝統的なフランス家庭料理としてのラタトゥーユを添えたラム肉のロースト