オーディオのついでに見たヨーロッパの野菜など(3.南フランスにて)

2013年 小林 正信

※この記事は株式会社産直新聞社が発行する「産直コペル」に連載したものです。

3.南フランスにて


 マルセイユではレンタカーのシトロエンC5を借り、プロバンスのドライブに出かけた。 フランスは田舎に行くと電車もバスもろくに無いのでレンタカーを借りるしかないのだが、「大都市マルセイユはパリより危険で運転が難しい」と聞いていたので、おっかなびっくり出発した。どうにか無事マルセイユの中心部を抜けて高速道路に乗ると、それからは快調に飛ばすことができた。クライン氏が「自動速度取り締まり機があるが百○○キロまでなら大丈夫」と言いながらグルーズコントロールに設定していた速度で走ると、すぐに目的のインターチェンジに着いた。マルセイユ側からプロバンスに入ると、コレンやゴルドといった味わいのある小さな村々がある。特にコレンはフランスにおける有機農業の先駆地として有名なので訪れてみたが、秋には全てが黄金色に染まるという村はひっそりとしていて、カラッとした石灰岩質のカルスト台地には、濃い紫の実を付けたブドウ畑がどこまでも広がるばかりであった。

プロバンスの南端にあるコレン村に広がるブドウ畑
プロバンスの南端にあるコレン村に広がるブドウ畑

 帰りがけに野菜畑で作業をしている男性を見つけ、運転席から窓越しに声をかけると人なつっこそうに応じてくれたので、車を降りて話を聞くことにした。といっても、フランス語はさっぱり解らないので、名詞は英語、名詞以外はカタ言のドイツ語という悲惨な状況での取材となった。ドイツ国境に近いアルザスでは、だれもがフランス語だけでなくドイツ語も話せたが、プロバンスまでくるとドイツ語も「英語よりはまし」という程度にしか通じないので、取材内容が乏しくて不正確なことをご了承いただきたい。幸いにも「オーガニック」は英語と共通のようで通じたが、男性の名前は聞き取れなかった。フランス語の発音は本当に難しい。

トマトを手にコレンの農作物について自慢する農家の男性
トマトを手にコレンの農作物について自慢する農家の男性

 男性はブドウ農家と推測され、はじめは言葉がうまく通じないのでニコニコするばかりだったが、農作物の自慢話になると熱が入り、「コレンの農作物は完全な有機栽培で、野菜は水と太陽だけで出来ている」と強調していた。まあ、牛糞などの有機肥料は使うのだろうが、家畜のエサもコレンの植物だから、元をたどれば水と太陽ということなのだろう。野菜はトマトが主なようだったが、自家消費用に数十種類の野菜やハーブを栽培していた。なんと、その中には日本では制限されているタバコまであり、「自分でシガレットにして吸うと最高だ」と満面の笑顔で話してくれた。男性が手に持っているのはトマトで、たっぷりのミントと一緒にプレゼントしてくれた。

 別の英語が話せるフランス人に聞いた話だが、フランスは今ベビーブームで、人口の減少に歯止めがかかっているという。子供のいる家庭が増えたことで食品の安全性への関心が強くなり、高価でも体に良い農作物が嗜好され、伝統的な小規模農業が見直される状況だそうだ。コレンにも若者が有機農業に魅せられてIターンしており、少子高齢化で国が傾きかけている日本から見れば、じつにうらやましい状況だ。

完全無農薬で化学肥料も無しという畑。右端の大きな葉はタバコで自家消費用
完全無農薬で化学肥料も無しという畑。右端の大きな葉はタバコで自家消費用

 プロバンスの大地は一見乾燥しているようだが、じつは水が豊富で、コレンの農地も澄み切った小川がいたる所に流れていた。小川は自然のままで日本のようにU字溝などのコンクリートになっておらず、水辺の草には琥珀色の羽の小ぶりな川トンボがいて絵になる風景だった。村の中心部にはやや大きな川が流れていて、野菜を洗ったり洗濯したりするための共同の水場があった。川の水は少しヒスイ色がかっていて、ミネラルがかなり豊富な印象を受けた。大地もミネラルが豊富で、おそらく日本とはかなり栽培条件が異なるのだろう。

意外に水が豊富なプロバンス。右の長方形の池は共同の洗い場
意外に水が豊富なプロバンス。右の長方形の池は共同の洗い場

 フランスは原子力発電を推進していて、福島の原発事故を機に脱原発を決めたドイツ人たちから「フランスはドイツ国境に原発を作ってけしからん」と非難されている。ドイツ人はアルカイダなどが原子炉を攻撃することを真剣に恐れているからだ。そんなフランスなので自然エネルギーへの関心は低く、ドイツでは林立していた風力発電機もソーラーパネルもわずかしか見なかったが、コレン村の酪農組合のプラントは屋根全面が太陽電池パネルで覆われていて、おとぎの国のような古い村の佇まいと奇妙なコントラストをなしていた。村の中心部も道行く人はわずかで、観光案内所も閉まっていた。どうも平日のコレンでは農産物はおろか、小さなカフェにある飲み物以外の買い物はできないようだ。